大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

大阪地方裁判所 平成9年(ワ)2860号 判決 1998年1月23日

原告

石川由里子

被告

藤岡義久

ほか一名

主文

一  被告らは原告に対し、連帯して金二九一万四二二二円及びこれに対する平成六年四月一日から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

二  原告の被告らに対するその余の請求を棄却する。

三  訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の、その余を被告らの負担とする。

四  この判決は第一項に限り仮に執行することができる。

事実及び理由

第一請求

被告らは原告に対し、連帯して金四二五万六二四五円及びこれに対する平成六年四月一日(事故日)から支払い済みまで年五分の割合による金員を支払え。

第二事案の概要

本件は、足踏式自転車に乗っていたところ、タクシーに衝突され傷害を負った原告がタクシーの運転者たる被告藤岡義久(以下「被告藤岡」という)に対し、民法七〇九条に基づき、タクシー会社たる東亜交通株式会社(以下「被告会社」という)に対し民法七一五条に基づいて損害賠償を求めた事案である。

一  争いのない事実

1  事故の発生

(一) 日時 平成六年四月一日午後一一時一二分頃

(二) 場所 大阪市鶴見区鶴見三丁目五番先、今福鶴見三丁目交差点

(三) 関係車両 被告藤岡運転の普通乗用自動車(大阪五五き八一五七号、以下「被告車」という)

原告運転の足踏式自転車(以下「原告車」という)

(四) 事故態様 原告車と、右折しようとした被告車が衝突し、原告が負傷した(以下「本件事故」という)。

2  被告らの責任原因

被告藤岡は、原告車の存在に十分注意を払わず右折しようとした過失がある。

被告会社は、被告藤岡の使用者であり、被告藤岡は被告会社の業務として被告車を運転していた。

3  損害の填補 七二万四二四六円

(一) 原告は、自賠責保険金四八万〇三七〇円を受領している。

(二) 原告は、被告会社から二四万三八七六円の損害の填補を受けている。

二  争点

1  過失相殺

(被告らの主張の要旨)

原告は、傘を差したまま原告車に乗り、横断歩道の信号が青から赤に変わる直前になって、飛び出しのような形で横断を開始したもので、相当程度の過失相殺がなされるべきである。

2  後遺障害の有無、程度

(原告の主張の要旨)

原告は顔面左眉を上下に跨る醜状痕を残し、これは自動車損害賠償保障法施行令二条後遺障害別等級表(以下単に「等級表」という)一二級に相当する。

(被告らの主張の要旨)

自動車保険料率算定会の認定どおり、原告には等級表に該当するような後遺障害は存しない。

3  損害額全般 特に休業損害

(原告の主張額)

(一) 治療費 一九万三八七六円

(二) 入院雑費 一万八二〇〇円

(三) 入院付添費 七万円

(四) 通院付添費 一万五〇〇〇円

(五) 破損した傘代 二五七五円

(六) 破損した衣服代 一万五〇〇〇円

(七) 休業損害 六九万三三三三円

計算式 一六万円÷三〇日×一三〇日=六九万三三三三円

(八) 逸失利益 二八万八〇〇〇円

(九) 入通院慰藉料 七〇万円

(一〇) 後遺障害慰謝料 二三五万円

(一一) 自転車修理代 三七〇〇円

よって、原告は被告らに対し、(一)ないし(一一)の合計四三四万九六八四円から損害填補額四八万〇三七〇円(第二の一の3(一))を差し引いた三八六万九三一四円及び(一二)相当弁護士費用三八万六九三一円の総計四二五万六二四五円並びにこれに対する本件事故日たる平成六年四月一日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(被告の主張の要旨)

(一)は認め、その余の損害の主張は争う。

特に、原告は事故当時就業しておらず、休業損害は認められない。

第三争点に対する判断

一  争点1(過失相殺)について

1  認定事実

証拠(乙一二の1ないし6)によれば次の各事実を認めることができる。

(一) 本件事故は、別紙図面のように、市街地をほぼ南北に延びる道路(以下「南北道路」という)とこれにほぼ直角に交わる道路(以下「東西道路」という)によってできた、信号機によって交通整理がなされている交差点の、南詰め横断歩道上で発生したものである。

東西道路を東進し右折する車両からの前方及び右方の見通しは良好であり、南詰め横断歩行者からの右折車への見通しも良好である。事故当時、雨が降っており、アスファルト舖装された路面は湿潤であった。

(二) 被告藤岡は、東西道路を東進して、右折南進しようと思い、対面信号青で交差点に進入し、別紙図面<1>(以下符号だけで示す)において一時停止し、対向直進車をやり過ごした後、南詰め横断歩道上をちらっと確認し、人影が見当たらなかったので、時速約二五キロメートルで<2>まで進行した際、五・九メートル前方の<ア>に自転車を認め、急制動をかけたが及ばず、<3>において、<イ>の原告車と衝突し(衝突地点は<×>)、原告及び原告車は<ウ>にそれぞれ転倒した。

(三) 他方、原告は、本件交差点の南詰め横断歩道を対面青信号に従い、横断していたが、その際、原告は無灯火で左手でハンドルを握り、右手で傘を差していた。

2  判断

被告藤岡は、横断歩道上の自転車の存在に注意を払わず右折を試みた過失がある。他方、原告も無灯火で原告車を走行させ、また前記のような不安定な姿勢で運転していたことが原告の傷害を拡大させる要因になったと推認できることから、過失相殺がなされるべきである。前記道路状況、自動車対足踏式自転車の事故であることを考えあわせた場合、過失相殺率は一〇パーセントと認められる。

二  争点2(後遺障害の有無、程度)及び争点3(損害額全般)について

1  認定事実

証拠(甲四ないし六、七の1ないし3、九、一〇、検甲一の1ないし6、乙一、二、四、六、一三ないし一五、原告本人)及び前記争いのない事実を総合すると、次の各事実を認めることができる。

(一) 傷害内容、治療状況

原告(昭和四二年四月二八日生、当時二六歳)は、本件事故によって、全身打撲、前額部打撲・挫創、頭部外傷Ⅰ型、頸椎捻挫、腰椎捻挫、左膝内障の傷害を負い、

(1) 事故翌日である平成六年四月二日から同月一五日までの一四日間、医療法人明生会明生病院において入院治療を受け、

(2) 平成六年四月一六日から同月二〇日まで、医療法人明生会明生病院に通院し(実通院日数三日)、

(3) 平成六年四月二一日から同年七月八日まで、済生会野江病院に通院した(実通院日数一二日)。

原告は事故後三日余りトイレにも行けない状態であり、入院中は原告の母が原告に付き添い、(2)、(3)の各通院に際しても同女が原告に付き添った。

原告の顔面は、事故後一か月余り腫れ上がり、また歩行障害により、同年五月末までは松葉杖を必要とした。なお、本件事故の際、原告車は破損し、傘と衣服が破損、汚損した。

(二) 症状固定

原告は、平成六年七月八日、前記済生会野江病院において症状固定の診断を受けたが、原告の左眉を上下に跨るようにして、眉毛の脱毛を伴う幅二ミリメートルの斑痕を残した。斑痕の長さは、両端を定規で直線的に測定すると約二・五センチメートルであるが、斑痕の形に沿ってこれを測定すると三センチメートルに及ぶ。また、同部位には時折、ひきつれ感が残存している。

自動車保険料率算定会は、原告の右障害は等級表上の後遺障害には当たらないとの判断をなした。

(三) 就労状況

原告は、高校卒業後、アルバイト勤務を継続し、平成六年一月から、三か月の約束で喫茶店「佳世」に勤務し、月額一六万円の収入を得ていた者であるが、本件事故前日の平成六年三月三一日、これをやめ、次の就職先を探しており、折しも本件事故直前アルバイト情報誌を購入すべく本屋に向かう途中、本件事故にあった。

原告は、前記歩行障害が治り、顔の傷がやや治まった平成六年七月中旬ころから勤務先を探し始め、同年八月九日から株式会社ペイネで勤務し、その後、転職し、現在、別の勤務先で勤務している。

原告は、母親と二人で暮らし、原告の収入が家族の生活を支える糧となっている。

2  後遺障害の有無、程度に関する判断

原告の顔面の線状痕は、斑痕に沿ってこれを測定すると三センチメートルに及ぶこと、眉毛の脱毛を伴い、顔の中でもかなり目立つ部位にあることを考慮すると、原告の右障害は等級表一二級一四号に該当するものであり、もしくはこれに相当するものと認められるが、右障害の性格、程度に照らし、逸失利益をもたらす程度には至っていない。

3  損害額についての判断(本項以下の計算はいずれも円未満切捨)

(一) 治療費 一九万三八七六円

(主張同額、争いがない)

(二) 入院雑費 一万八二〇〇円

(主張同額)

1において認定したように原告は一四日間入院し、一日あたりの入院雑費は一三〇〇円とするのが相当であるから総額は一万八二〇〇円(一三〇〇円×一四日)となる。

(三) 入院付添費 二万八〇〇〇円

(主張七万円)

原告の傷害内容に照らし、一日当たり二〇〇〇円の限度で入院付添費を認めるのが相当であるから総額は二万八〇〇〇円(二〇〇〇円×一四日)となる。

(四) 通院付添費 〇円

(主張一万五〇〇〇円)

原告の年齢、傷害内容に照らし、通院付添費は認められない。

(五) 破損した傘代 〇円

(主張二五七五円)

本件事故によって原告の傘が破損したことは入通院慰謝料の加算要素として考慮する。

(六) 破損した衣服代 〇円

(主張一万五〇〇〇円)

本件事故によって原告の衣服が破損したことは入通院慰謝料の加算要素として考慮する。

(七) 休業損害 四六万九三三三円

(主張六九万三三三三円)

前記認定事実、特に原告が転職を重ねたものの、ほぼ継続して就労を続けていたこと、その収入によって家族の生活を支えていたこと、事故時において次の就職先を探していたこと等に鑑みれば、原告が本件事故に遭わなければ早期に、遅くとも、平成六年四月一二日までには次の勤務先を探した上、就労を開始していたという蓋然性が高い。また、前記原告の傷害内容、部位、程度、症状の推移等に鑑み、本件事故と症状固定日である平成六年七月八日までは原告の休業と本件事故との相当因果関係が肯定できる。

そこで、前記喫茶店「佳世」での給与を基礎収入として、四月一二日から七月八日までの八八日間の休業損害額を求めると前記金額が得られる。

計算式 一六万円÷三〇日×八八日=四六万九三三三円

(八) 逸失利益 〇円

(主張二八万八〇〇〇円)

前記のように逸失利益は認められない。

(九) 入通院慰藉料 七〇万円

(主張同額)

原告の傷害の部位・内容・程度、入通院期間・状況の他、本件事故によって、原告の自転車、衣服、傘が破損した等の事情を考え併せると、右金額をもって慰謝するのが相当である。

(一〇) 後遺障害慰謝料 二三〇万円

(主張二三五万円)

前記原告の後遺障害の内容、程度からみて、右金額をもって慰謝するのが相当である。

(一一) 自転車修理代 〇円

(主張三七〇〇円)

本件事故によって原告の自転車が破損したことは入通院慰謝料の加算要素として考慮ずみである。

第四賠償額の算定

一  損害総額

第三の二の3の合計は三七〇万九四〇九円である。

二  過失相殺

一の金額から前記第三の一認定の原告の過失相殺率一〇パーセントを差し引くと三三三万八四六八円となる。

三  損害の填補

二の金額から損害填補額七二万四二四六円(第二の一の3)を差し引くと二六一万四二二二円となる。

四  弁護士費用

三の金額、本件審理の内容、経過に照らすと、原告が訴訟代理人に支払うべき弁護士費用のうち本件事故と相当因果関係があるとして被告らが負担すべき金額は三〇万円と認められる。

五  結論

三、四の合計は二九一万四二二二円である。

よって、原告の被告らに対する請求は、右金額及びこれに対する本件事故日である平成六年四月一日から支払い済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由がある。

(裁判官 樋口英明)

交通事故現場見取図

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例